ほりのかきちらし

読書感想など

【観劇感想】キスより素敵な手を繋ごう

naikon.jp


劇団ナイスコンプレックスさんの舞台「キスより素敵な手を繋ごう」を観劇しました。
きっかけは主演の中村誠治郎さんのTwitter。ものすごく思い入れと熱量をもって取り組まれているのが伝わって、どんな作品なんだろうと興味を持ちました。
で、実際観てみたところ、舞台観てこんなに号泣したのいつぶりだろう…というぐらい心揺さぶられて、最高だったので、感想を書いておきます!

公式サイトからあらすじを引用。


「私の最愛の⼈は毎朝私に⼀⽬惚してくれる」
極度のストレスにより⼀⽇しか記憶を保てなくなった刑事
と、その夫を⽀え愛し続ける妻の物語。
記憶障害になった夫は、
毎朝起きると妻と出会ったその⽇に戻る。
妻は⼀⽇で夫に愛される為、その⽇を過ごす。
「忘れられる事が⾟いんじゃない。
あなたの中の私じゃなくなるのが⾟いの。」
「愛」という⼒を「時間」が崩す。
【愛】がテーマの感動作。
あなたなら、どうしますか?


前知識はこのあらすじだけ。薄情な私は「ハイハイ記憶なくしてもあなたに恋をする的なやつね!感動のやつね!おっけー!」という、失礼なほど軽い気持ちでした。
実際その通りといえばまあその通りだったわけですが、私が思ってたのと全然違った……全然!違った!号泣でした。マスクが大変なことになりました。

以下、ネタバレです。詳細に説明したりはしていませんが、核心に全く触れずに語ることはどうしてもできないので。
再演や映画化への野望もあるとのことなので、今後何かの折に見る可能性があるひとは、ぜひ読まずにこのページからサヨナラしてほしいです。

「私の最愛の人は毎朝私に一目惚してくれる」

あらすじのこのシーンから、物語は始まります。しかし強烈な違和感。なんだかわざとらしい。しらじらしている。ぎくしゃくした感じ。お恥ずかしながら初めて見る役者さんが多かったので、あまり演技が上手くないのかしらと訝しんだほど。
けれど大きな間違いでした、違和感。それで良かったんです。違和感の理由は後にわかりました。
この家の特殊な「事情」の全貌がわかるのは、かなり後。現在からどんどん時間を遡っていく形式で、徐々に明かされていきます。あれ、なにかおかしいぞ、と思わせ、ちょっとずつ真相に近づいていく、サスペンスではないですが、謎解きに近い要素も楽しめました。

また、ただの説明のための過去編ではなく、他の登場人物たちのドラマの掘り下げがあり、遡り切る頃には、みんなが愛おしくなっていました。
私がお気に入りだったのはパソコンオタク君。コミカル要素の強い役回りで、要所要所で和ませてくれました。最後のお芝居の場面では、決して上手じゃないダンスを一生懸命踊る姿がいじらしくて……。それだけ「おばちゃん」を大切に思っているんだなあ、下宿のみんなを信頼しているんだなあ、とわかり、温かい気持ちになりました。バンドマン君が、「笑って」とでも言っているように、オタク君に向かって自分のほっぺをつんつんしてみせていたのに気づいたときはキュンとしました。コミュ障だというパソコンオタク君にとっても、この下宿が、大切な仲間に囲まれた、温かい場所なんだとわかります。

ビデオの場面からのクライマックス。これはもう、ずっと泣いていました。こんなに泣くなんて聞いてない!
ここは、あえて言葉では語らずに、まだ私の胸の内だけで噛み締めさせてください。

そして最後に。実は、ずーっと気になっていたのが、父と娘の物語。舞台は夫婦の話をメインに展開しますが、二人の物語を追いながらも、心の片隅で娘の気持ちが気になっていました。父にその存在すら、忘れられ続けている娘。しかも母の代わりをしている限り、娘は娘であることを名乗れない。「お父さん」って呼べない。娘は口に出して言わないけれど、とても悲しくて寂しかっただろうと思います。
私自身が、家族の中で娘の立場だから、余計に気にかかったのかもしれません。
だから最後の最後、エンディングにまぎれるようにして、娘が「お父さん!」と呼んだとき、トドメを刺されたように号泣してしまいました。
よかったね、やっと呼べたね。
この作品が、娘の気持ちを忘れないでいてくれたことにほっとしました。

パンフレットに映画化への志が書かれてしましたが、ぜひ、映画化してほしいと私も強く思います。私は映画のことは詳しくないけれど、なんとなく、この作品は映画で見たい。
そして映画なら、舞台よりも、時を経て繰り返し見ることがしやすい。娘の立場で、妻の立場で、母の立場で、時を経るごとに違う視点で見ることができたら、この作品はもっともっと素敵なものに深まっていくだろうなと思います。
とても素敵な作品に出会わせてくれて、ありがとうございました!映画化待ってます!