ほりのかきちらし

読書感想など

【読書感想】浅倉卓弥『黄蝶舞う』「空蝉」

浅倉卓弥『黄蝶舞う』PHP文芸文庫、2012年

「空蝉」
病床の大姫と母・政子の会話を描いた短編。静かな空気感の中、父母を恨みたくない気持ちと義高への思慕の間で葛藤する大姫の姿が切なく沁みました。
義高死後の大姫について「陽炎のような生涯」と表現するのが印象的。
本人は登場しませんが、大姫の弟でまだ幼い実朝(千幡)が話に出てきます。セミの抜け殻を見つけて大姫に持ってきてあげる、という子どもらしいエピソード。そのエピソードから伺える実朝の無邪気さに連想して、同じ年の頃に義高と出会った大姫の、無邪気に心ときめかせていたであろう時間を思いました。
このエピソードが、タイトルにもなっている「空蝉」に象徴されたテーマを呼び起こすきっかけにもなっていて、自然に気持ちが入り込めました。
物語で描かれるのは大姫の人生のほんの一場面のため、途中、大姫のこれまでについて、作者の歴史観も交えた解説が入ります。しかし不自然さはなく、物語の雰囲気も壊されることなく読み進められました。物語抒情と歴史記述パートが融合していたことで、大姫の人生の時間を一緒に旅することができ、その上で現在の大姫を間近で見守った気持ちになりました。